IT担当者がいないとき、まずやるべき三つのこと
開発会社を探す前に、社内で整理しておきたい最低限の内容
社内にIT担当者がいなくても、システム開発を始めることはできます。技術仕様は、開発パートナーと一緒に決めていけばよいからです。ただし、何を変えたいのか、誰が使うのか、何を優先するのかについては、まず社内で整理する必要があります。この三つが整理されているだけで、開発会社との相談の質は大きく変わります。
最初に開発会社を探すと、なぜ難しくなるのか
繰り返し行っている手作業を減らすために、新しいシステムを作ることになったとします。インターネットで開発会社を3社探し、それぞれに問い合わせました。
ところが、会社ごとに質問される内容が違います。ある会社からは希望する機能一覧を求められ、別の会社からは現在使用しているシステムを聞かれます。さらに別の会社からは、最初に予算を尋ねられます。
質問に答えているうちに、各社へ少しずつ違う説明をすることになります。
その結果、届いた見積金額や開発期間には大きな差が生まれます。しかし、どのような基準で比較すればよいのか分かりません。
このような状況になると、「自分たちにITの知識がないからだ」と考えがちです。しかし、本当の原因は知識不足ではありません。原因は、準備する順番にあります。解決したい課題、利用者、優先順位が整理されていない状態で、開発方法や見積金額から質問してしまったことが原因です。
必要な情報がなければ、開発会社は空欄になっている部分を、それぞれの考え方で補うしかありません。そのため、各社から異なる提案や見積もりが返ってきます。
準備をすれば、すべてが正確になるわけではありません。それでも、事前に整理するほど、見積金額とスケジュールの不確実性を小さくできます。そのために最低限必要なのが、次の三つです。
1. 作りたい機能より、解決したい課題を整理する
最初から詳細な機能一覧を作る必要はありません。それは、開発パートナーと一緒に考える部分です。まずは、次の五つの質問に答えてみてください。
- 現在、どの業務で問題が起きているか
- 誰が最も大きな不便を感じているか
- 現在、その業務をどのような方法で処理しているか
- どのくらい時間がかかり、どの程度ミスが発生しているか
- システムを導入した後、何が変わってほしいか
同じ依頼でも、これらの答えがあるかどうかで伝わり方が大きく変わります。
後者の文章には、技術用語が一つも使われていません。それでも開発会社は、この文章だけで何を作る必要があるのかを半分ほど理解できます。大切なのは正確な技術用語ではなく、現在の不便と、実現したい変化を具体的に説明することです。
2. 利用者と、最も重要な業務の流れを整理する
システムは、単に機能を集めたものではありません。人が仕事を進める順番を変えるための道具です。そのため、次に整理したいのは、誰が、どのような順番で仕事をするのかです。
- 誰がそのシステムを使うのか
- 業務はどのような順番で進むのか
- 何をきっかけに、その業務が始まるのか
- 業務の最後に何が残る必要があるのか
- 承認、通知、修正、キャンセルの手順が必要か
- 管理者と一般利用者で、閲覧できる範囲が異なるか
この段階で画面を描く必要はありません。次のような文章で十分です。
- 営業担当者が新しい顧客を登録します。
- 管理者が担当者を割り当てます。
- 担当者が商談内容を記録します。
- 契約の可能性が高くなった場合、チーム責任者へ通知します。
わずか4行ですが、この中には3種類の利用者、権限の違い、通知の条件が含まれています。複雑な画面設計を作る前に、業務がどのような順番で進むのかを整理することが大切です。
3. 予算・スケジュール・優先順位・意思決定者を決める
開発する範囲は、予算とスケジュールによって変わります。そのため、三つ目に整理するのは、今回のプロジェクトで現実的に実行できる条件です。
- 使用できる予算の範囲
- 必ず完成させなければならない時期と、その理由
- 最初のバージョンに必ず必要な機能
- 後から追加してもよい機能
- プロジェクト責任者
- 最終承認者
- 資料や意見を開発会社へ伝える窓口担当者
予算は伝えたほうがよい
予算を伝えると、開発会社から高い金額を提示されるのではないかと心配し、予算を伏せるケースがあります。しかし、予算が分からなければ、開発会社には開発範囲を決める基準がありません。そのため、必要な機能を広めに想定するか、反対に最小限だけを想定することになります。結果として、各社の見積もりを比較しにくくなります。
正確な金額ではなく、予算の範囲だけでも構いません。「この予算内で何ができるのかを知りたい」と伝えるだけで十分です。
機能を三つに分ける
| 区分 | 判断基準 |
|---|---|
| 必ず必要 | この機能がなければ、利用を開始できない |
| あると便利 | 便利ではあるが、最初のバージョンになくても開始できる |
| 後から検討 | 実際に使った後で、必要かどうかを判断する |
最初のバージョンは、すべての機能がそろった完成品ではありません。実際に使いながら、方向性が正しいかを確認するための小さなスタートです。一度にすべての機能を作るより、最後まで完成できる小さな範囲を先に決めるほうが安全です。残りの機能は、実際に使ってから決めても遅くありません。
どのような方法で開発するかは、まだ決めなくても構いません。既製品を導入したほうがよい場合もあれば、ノーコードツールで十分な場合もあります。また、新しく開発する必要がある場合もあります。
開発方法は、課題と条件を確認した後で決めるものです。先に開発方法を決め、それに合わせて課題を考えると、多くの場合は費用が増えてしまいます。
開発会社へ渡す最低限の資料
これまでの三つの内容を1枚にまとめれば、そのまま相談資料として使えます。完成された要件定義書である必要はありません。文書、スライド、表など、形式も自由です。
| 項目 | 記載する内容 |
|---|---|
| 背景 | なぜ今、このプロジェクトを始めたいのか |
| 課題 | どのような不便を解決したいのか |
| 利用者 | 主に誰が使うのか。利用者は何人いるのか |
| 現在の方法 | 現在、その業務をどのように処理しているのか |
| 理想の業務フロー | 導入後、どのような順番で仕事を進めたいのか |
| 必須機能 | 今回、必ず必要なものは何か |
| 参考事例 | 似ていると感じたサービスや画面 |
| 希望スケジュール | いつまでに必要なのか。なぜ、その時期なのか |
| 予算範囲 | 今回のプロジェクトに使用できる予算 |
| 担当者 | 開発会社との窓口担当者と最終承認者 |
| 既存システム | 連携する必要がある既存のシステムやサービス |
| 個人情報・セキュリティ | 扱う情報と、守らなければならない条件 |
この表で特に空欄になりやすいのが、既存システムと個人情報・セキュリティです。そして、後からスケジュールや費用を大きく変える原因になりやすいのも、この二つです。現在使用しているシステムからデータを移す必要があるのか、顧客の個人情報を扱うのかだけでも、事前に記載しておくと役立ちます。
良い開発パートナーは何を質問するのか
この資料は、開発会社を選ぶ際の判断基準としても使えます。最初の相談で、相手が何を質問するのかを確認してください。
- なぜ今、そのシステムが必要なのか
- 実際に使う人は誰なのか
- 現在は、その業務をどのように処理しているのか
- 最初のバージョンで何を検証したいのか
- 社内の意思決定者は誰なのか
- 公開後の運用や修正は誰が担当するのか
- 個人情報やセキュリティについて、守るべき条件は何か
機能や金額を素早く提示すること自体が、悪いわけではありません。ただし、事業の目的と実際の業務を先に理解しようとする会社のほうが、その後の開発範囲を一緒に調整しやすい傾向があります。
見積金額が会社によって大きく異なる理由については、関連記事開発の見積もりが会社によって2〜3倍も違う理由で詳しく解説しています。
相談前のチェックリスト
開発会社へ連絡する前に、次の10項目を確認してみてください。すべての項目を埋められなくても構いません。回答できる項目が多いほど、相談時間が短くなり、各社から届く提案も比較しやすくなります。
- 解決したい課題を一文か二文で説明できる
- 最も大きな不便を感じている人が誰か分かっている
- 現在、その業務をどのように処理しているか説明できる
- システム導入後の業務の流れを4〜5行で書いている
- 必須機能と、後から追加できる機能を分けている
- 今回使用できる予算の範囲が決まっている
- いつまでに必要なのか、その理由を説明できる
- 社内の責任者と最終承認者が決まっている
- 既存のシステムとの連携が必要か確認している
- 扱う個人情報とセキュリティ上の条件を記載している
よくあるご質問
Q. IT担当者がいなくても、システム開発を依頼できますか?
はい、可能です。技術仕様は、開発パートナーと一緒に決める部分です。社内で整理していただきたいのは、解決したい課題、利用者、優先順位の三つです。これらは、実際の業務を知っている方が最もよく分かっている内容です。
Q. 開発会社へ問い合わせる前に、何を準備すればよいですか?
この記事でご紹介した1枚の資料があれば十分です。背景、課題、利用者、現在の方法、理想の業務フロー、必須機能、スケジュール、予算範囲、担当者を記載してください。資料の形式は自由です。
Q. 開発予算は事前に決める必要がありますか?
正確な金額でなくても構いませんが、予算の範囲は決めておくことをおすすめします。予算が分からなければ、開発会社は開発範囲を決められません。その結果、条件の異なる見積もりが届き、比較しにくくなります。予算の範囲を伝えれば、その範囲内で実現できる方法を提案してもらえます。
Q. 要件定義書がなくても相談できますか?
はい、相談できます。要件定義書は、相談を重ねながら一緒に作っていく資料に近いものです。ただし、課題、利用者、優先順位が整理されていると、最初の相談から、より具体的な話ができるようになります。詳しくは、関連記事要件が決まらないまま開発を始めると、何が起きるのかでご紹介しています。
Q. 良い開発会社は、どのような質問をしますか?
機能や金額より先に、開発の目的と実際の業務について質問します。なぜ必要なのか、誰が使うのか、現在はどのように処理しているのか、最初のバージョンで何を確認したいのかを質問する会社であれば、その後の開発範囲も調整しやすくなります。
完璧な企画書より、明確な課題設定を
社内にIT担当者がいなくても、プロジェクトを始めることはできます。技術仕様は、開発パートナーと一緒に具体化していけば問題ありません。ただし、解決したい課題と優先順位については、社内で決める必要があります。この部分を、社外の会社が代わりに決めることはできません。
そして、最初は小さく始めてください。小さな最初のバージョンは、機能が不足した製品ではありません。次の判断を行うための材料です。実際に使ってから次の機能を決めることで、大きな手戻りを減らせます。
何を作ればよいのか、
まだ明確に決まっていなくても構いません。
まずは、現在の業務と解決したい課題についてお聞かせください。
最初のバージョンに必要な範囲を、一緒に整理します。
ご相談は60分無料で、事前にご用意いただく資料もありません。こちらから営業電話をかけることもありません。
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※ 本文中の顧客管理および営業担当者の事例は、複数のご相談でよく見られる内容をもとに構成した例です。特定のお客さまやプロジェクトを紹介したものではありません。
※ この記事の判断基準は、あたたかいデジタルにおける相談経験に基づくものです。業界の統計や調査結果ではありません。開発期間と費用は、開発範囲、外部連携、セキュリティ、検収条件などによって異なるため、一般的な数値は掲載していません。